現代にも色あせない江戸時代の『養生訓』

日本のひと皿雑記

江戸時代の前期から後期にかけて活躍した儒学者・貝原益軒は、82歳のときに『養生訓』を著しました。

その内容の多くは現代にも通用するもので、健康で人生を楽しむ知恵が詰まっています。

”養生の術をまなんで、よくわが身をたもつべし。是人生第一の大事なり。
人身は至りて貴とくおもくして、天下四海にもかへがたき物にあらずや。

(現代語)養生の方法を学んで、健康を保つよう注意すべきだ。これが人生でもっと大切なことである。健康は何にも代えがたいものではないか。

然るにこれを養なふ術をしらず、慾を恣にして、身を亡ぼし命をうしなふこと、愚なる至り也。
身命と私慾との軽重をよくおもんぱかりて、日々に一日を慎しみ、私慾の危(あやうき)をおそるること、深き淵にのぞむが如く、薄き氷をふむが如くならば、命ながくして、ついに殃(わざわい)なかるべし。豈(あに)、楽まざるべけんや。

(現代語)養生の方法を知らず、欲にまかせて自身を損ない命を失うこと、愚かである。自身の命と欲のどちらを優先すべきかよく考え、日々を大事に過ごし、欲に溺れないように注意を払って暮らしていけば、長生きでいつまでも災いが降りかかってくることはないだろう。そして人生を楽しもうではないか。

益軒はこのようにしたため、具体的にどのように過ごせばよいのか、さまざまなアドバイスを贈っています。

例えば「夕食は簡素にすべし」ということ。

夜は体を動かす時間帯ではないから、控えめがよいと書いています。特に味が濃いものや脂っこいものは体の負担になるので避けるようにとしています。

また「旬のものを食べよ」というアドバイスも書いています。

いたんだものは当然のこと、季節外れの食材や十分に熟していない食材は禁物であると説いています。

「体を動かし昼寝はするな」というアドバイスもあります。昼寝がよくないというのは、横になって本格的に眠ってしまうと本来の睡眠リズムを乱してしまうことを懸念してのことです。

昼寝が習慣となっている国もありますがが、日の長さや気候風土、その土地で長く生きてきた人間の体質の違いを考えると、日本人の昼寝は軽く短めが良いということなのでしょうか。

中でも特に注目すべきは「健康を過信せず、予防を心がけるべき」という内容です。

人体の構造の理解や栄養学などの知識も十分でなかった江戸時代の記述なのに、現代の私たちに説いているのかと錯覚するかのような洞察です。

益軒は『養生訓』を上梓した2年後に没しますが、見事に天寿を全うしました。

益軒が生きた実に300年後を生きている私たちは、生活様式も食生活も大きく変わりました。にもかかわらず、当時の言葉が響くのは「よく生き、よく死にたい」という思いは変わらず、先人が工夫してきた食文化・生活習慣を受け継いで生きているからなのかもしれません。

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